大阪地方裁判所 平成11年(ワ)12093号 判決 2000年9月06日
原告
小林愛子
被告
加古川義隆
ほか一名
主文
一 被告らは、原告に対し、連帯して、金八一万六八六七円及びこれに対する平成一〇年五月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを一〇分し、その一を被告らの、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは、原告に対し、連帯して、金六〇五万五五四〇円及びこれに対する平成一〇年五月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 争いのない事実等(証拠により認定した事実については証拠を掲記する。)
1(本件事故)
(一) 日時 平成一〇年五月二二日午前一一時四〇分ころ
(二) 場所 大阪市中央区天満橋京町一番先路上(石切大阪線)
(三) 加害車両 被告加古川義隆(以下「被告加古川」という。)運転の普通乗用自動車(大阪五五く四一〇三)
(四) 態様 加害車両が歩行横断中の原告(昭和四四年七月二六日生、当時二八歳)に衝突したもの
2(被告オーケータクシー株式会社の責任)
被告オーケータクシー株式会社は、加害車両を所有し、自己のために運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法三条に基づく損害賠償責任がある。
3(傷害、治療経過)
(一) 傷害(甲三)
右腕神経叢損傷、頸椎捻挫、右肩捻挫、腰椎捻挫、左膝内側側副靱帯損傷
(二) 治療経過
(1) 国家公務員共済組合連合会大手前病院(甲二)
平成一〇年五月二二日通院
(2) 社会福祉法人四天王寺福祉事業団四天王寺病院(甲三、一〇)
平成一〇年五月二五日から同年七月三日まで入院四〇日間
平成一〇年七月一一日から同年一一月一七日まで通院(実通院日数一五日)
(3) 症状固定 平成一〇年一一月一七日(甲一〇)
4(後遺障害)
一二級一二号(局部〔右上肢〕に頑固な神経症状を残すもの)(自動車保険料率算定会認定)
5(損害填補)
自賠責保険金 二八八万三六九九円
二 争点
1 事故態様、被告加古川の責任、過失相殺
(一) 原告
(1) 交差点に設置された横断歩道の歩行者用信号機が青色であったため、原告がその横断歩道の手前約七メートルのところを横断しようとしたところ、原告の右方から進行してきた加害車両に跳ねられ、この衝撃で原告は衝突地点から約二メートル先の地点に転倒した。
(2) 被告加古川には前方注視義務違反の過失がある。
(二) 被告ら
(1) 被告加古川は、本件事故発生前、本件事故現場西側から本件交差点を右折するため、予め本件交差点手前に設けられた右折レーンへ、信号機の右折可の矢印信号に従い、減速しながら進行したところ、右折前に矢印信号が消灯したことから、停止するため、更に減速徐行していた。
(2) 被告加古川は、本件事故現場へ差し掛かった際、突然、左側直進車線(二車線)上に停止している車両の間から原告が出てきたのを見て、ブレーキをかけたが、原告との接触を避けきれず、加害車両の左フェンダーミラーと原告の身体とが接触した結果、原告がその場に転倒した。
(3) 本件事故による加害車両の損傷は、左フェンダーミラーが曲がっただけ(すぐに復旧した。)で、他にはなかった。
(4) 本件事故当時の信号表示は、歩行者用信号を含めてすべて赤色表示であった。
(5) 原告は、横断歩道上ではなく、横断禁止の道路交通標識が設置されている場所を横断しようとしたものであり、更に、信号に従って道路上に停止中の車両の間から飛び出してきたものである。
(6) 本件事故現場は、大阪市内を南北に結ぶ幹線道路である御堂筋、堺筋、谷町筋を東西方向で結ぶ極めて交通量の多い幹線道路であり、本件事故現場の東約三〇メートルには、ともに交通量の多い谷町筋と石切大阪線との交差点(本件交差点)がある。
(7) 本件道路北側歩道南端には、横断歩道西端を起点として西方向に約三〇メートルにわたり、成人男性でも跨ぐことが極めて困難な高さ八〇センチメートルの横断禁止ガードレールが設置されている。
また、横断歩道西端から約二〇メートルの位置に横断禁止の道路標識が設置されている。
(8) 本件道路の幅は、東行車線(三車線)が九・四メートル、西行車線が七・二メートルあり、全体で約一七メートルの幅があり、本件事故現場は、本件道路北端から南へ約八メートル、本件交差点がら西に約三一メートルの地点である。
2 損害
(一) 治療関係費 五〇万四〇一九円
(1) 治療費 四四万三八七九円
(2) 入院雑費 五万二〇〇〇円
1300円×40日=5万2000円
(3) 通院交通費 八一四〇円
平成一〇年七月一一日 タクシー 四二八〇円
二八日 タクシー 二〇二〇円
八月一一日 地下鉄 四六〇円
九月八日 地下鉄 四六〇円
九月一九日 地下鉄 四六〇円
九月二八日 地下鉄 四六〇円
(二) 休業損害 六八万四六五〇円
(1) 有限会社レインフォレスト・フィルムの代表取締役
(2) 休業期間 平成一〇年五月二二日から同年八月一日まで七二日間
(3) 基礎収入 年三四七万〇八〇〇円(平成九年賃金センサス第一巻、第一表、産業計、企業規模計、学歴計、女子労働者二五ないし二九歳)
(347万0800円/365日)×72日=68万4650円
原告が本件事故により休業せざるを得なくなったため、平成一〇年五月から七月にかけて、三名のアルバイト(民田弓子、中西裕子、木上美香)を臨時に雇い、アルバイト代として、合計四九万三〇〇〇円を支払った。
右出費は、形式的には有限会社レインフォレスト・フィルムの損害であるが、同社は原告の経営する個人企業であり、実質的には原告が右損失を被っている。
なお、原告は、代表取締役といっても、一〇〇パーセント現場での仕事である。
(三) 逸失利益 三八六万〇五七〇円
(1) 労働能力喪失率 一四パーセント
(2) 喪失期間 一〇年(新ホフマン係数七・九四五)
(3) 基礎収入 年三四七万〇八〇〇円
347万0800円×0.14×7.945=386万0570円
(四) 慰謝料 三三一万円
(1) 入通院慰謝料 七一万円
(2) 後遺障害慰謝料 二六〇万円
(五) 弁護士費用 五八万円
第三判断
一 争点1(事故態様、被告加古川の責任、過失相殺)
争いのない事実1(本件事故)に証拠(甲一四、一六の1ないし14、乙一の1ないし8、原告本人、被告加古川本人)を総合すると、次の事実が認められる。
1 本件事故現場の状況は、別紙交通事故現場見取図(以下地点を指示する場合は同図面による。)記載のとおりであり、東行三車線、西行二車線の歩車道の区別のある東西方向の道路(以下「本件道路」という。)であり、東側三メートル余の地点に信号機により交通整理の行われている交差点(横断歩道も設置されている。)があり、最高速度は時速五〇キロメートル、歩行者の横断禁止の規制がなされている。
2 被告加古川は、加害車両を運転して、本件道路の東行車線の第三車線(中央寄り車線)を時速約二〇キロメートルで東の信号機により交通整理の行われている交差点で右折すべく進行していたところ、進行方向左側から横断してきた原告に気づかず、<3>地点で加害車両の左前角付近が原告と衝突し(衝突地点は<×>)、約〇・六メートル進行した<4>地点で停止し、原告は<ウ>地点に停止した。
本件道路の東行車線の第二車線は、信号待ち車両が何台もあった。
3 原告は、歩行者横断禁止規制のなされている本件道路北側から南側に向かい第二車線の信号待ち停止車両の間を縫って横断し、<×>地点で加害車両と衝突した。
以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
右に認定の事実によれば、被告加古川は進路前方を注視していれば、原告が横断してくるのを事前に認識することができたものと考えられ、被告加古川の前方注視義務違反が本件事故の発生の原因となっていることが認められるから、被告加古川は民法七〇九条に基づく損害賠償責任がある。
一方、原告には、横断禁止規制がなされている場所で、停止車両の間から横断をし、かつ、第三車線の車両の動静を注意していなかった点に過失が認められる。
以上の事実を総合考慮すると、本件事故についての過失割合は、原告五割、被告加古川五割とするのが相当である。
二 争点2(損害)
1 治療関係費 五〇万四〇一九円
(一) 治療費 四四万三八七九円
証拠(甲四、五の1ないし5、六)により認められる。
(二) 入院雑費 五万二〇〇〇円
入院雑費は、一日当たり一三〇〇円とするのが相当であり、その四〇日分で五万二〇〇〇円となる。
(三) 通院交通費 八一四〇円
証拠(甲七の1、2、弁論の全趣旨)により認められる。
2 休業損害 一四万四〇〇〇円
証拠(甲八、一七の1、2、原告本人)によれば、原告は、平成八年六月一九日、イベントの企画、運営、出版を目的とする有限会社レインフォレスト・フィルムを設立し、その代表取締役として月額六万円の役員報酬を得ていたこと(これ以上の収入を得ていたことを認めるに足りる証拠はない。)、本件事故による受傷のため平成一〇年五月二二日から同年八月一日まで七二日間休業したことが認められるから、休業損害は、次の計算式のとおり一四万四〇〇〇円となる。
(6万円/30日)×72日=14万4000円
3 逸失利益 三二四万三一一四円
原告の逸失利益の基礎収入は、原告の年齢、有限会社レインフォレスト・フィルムが設立されて間もない会社であったこと等を考慮すると、平成九年賃金センサスによる平均賃金を参考に、年三〇〇万円の収入を得る蓋然性を認めることができるというべきであり、原告の後遺障害の程度からすると、労働能力喪失率は一四パーセント、喪失期間は一〇年(ライプニッツ係数七・七二一七)として、原告の逸失利益を算定すると、次の計算式のとおり三二四万三一一四円となる。
300万円×0.14×7.7217=324万3114円
4 慰謝料 三三一万円
(一) 入通院慰謝料 七一万円
原告の入通院状況等からすると、入通院慰謝料は七一万円と認めるのが相当である。
(二) 後遺障害慰謝料 二六〇万円
原告の後遺障害の程度からすると、後遺障害慰謝料は二六〇万円と認めるのが相当である。
5 以上を合計すると、七二〇万一一三三円となる。
三 過失相殺
前記認定判断のとおり、右七二〇万一一三三円からその五割を過失相殺すると、三六〇万〇五六六円となる。
四 損害填補(二八八万三六九九円)
右三六〇万〇五六六円から既払額二八八万三六九九円を控除すると、七一万六八六七円となる。
五 弁護士費用 一〇万円
本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、一〇万円と認めるのが相当である。
六 よって、原告の請求は、八一万六八六七円及びこれに対する本件事故の日である平成一〇年五月二二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(裁判官 吉波佳希)
交通事故現場見取図